2023年前半の振り返り(論文)
早くも2023年の半分が終わろうとしています。この前半期で共著の論文が4本受理または掲載されました。
・Deguchi et al. (2023) Deep-Sea Research II
サワラ仔魚によるカタクチイワシ仔魚の捕食インパクト評価を行いました。第一著者の出口さんの修士論文研究がベースとなっています。瀬戸内海中部の燧灘では、カタクチイワシ仔魚(シラス)の不漁が深刻になっており、その要因の一つとしてサワラの増加による影響を検討しました。しかし、その影響は小さいこと、一方でシラスの餌料環境が悪化して成長が低下していることが間接的にサワラによる捕食を増大させている可能性、について報告しました。
・Shoji & Tomiyama (2023) Estuaries and Coasts
アマモ場は魚類の成育場として知られていますが、アマモは日中に光合成を行う一方で、夜間ではアマモ自身の呼吸によって溶存酸素が低下する、ということに着目し、魚類への影響について検討した論文です。第一著者の小路さんならではの発想です。海域の溶存酸素は4.3mg/L以上が水産用水基準として定められていますが、瀬戸内海のアマモ場で、特にアマモが高密度に生えている場所では、夜間に溶存酸素が4mg/Lを下回ることが確認されました。優占種であるシロメバル稚魚は溶存酸素が2mg/L以下で生残率が大きく低下することも実験的に確認され、夜間の溶存酸素低下は魚類の生息に負の影響を及ぼす可能性が示唆されました。
・Kudoh et al. (2023) Fishery Bulletin
第一著者の工藤さんたちが見出したアカメバルとクロメバルの水槽内における行動の違いを記載した論文です。もともと「メバル」とされていた魚が3種に分類されていますが、種間の生態的な違いはよくわかっていません。この論文では、アカメバルがより底生性が強く、クロメバルは活発に泳いでいる、という顕著な違いを報告しています。ただし、工藤さんによるとアカメバルはカサゴほど底生性は強くないそうです。
・Hashida & Tomiyama (2023) Journal of Fish Biology
マアジ稚魚の耳石日周輪解析をもとに、宇和海に出現するマアジの孵化時期や成長について調べた論文です。第一著者の橋田さんがこの海域におけるマアジの資源生態について行っておられる研究成果の一つです。宇和海ではマアジの産卵期が4~6月であるのに対し、9割以上の稚魚は2~4月に孵化していることが判明しました。マアジは東シナ海に大規模な産卵場を形成します。その産卵期と一致することなどから、宇和海のマアジ稚魚は東シナ海など他の海域を由来としている可能性が示唆されました。
後半も論文発表を目指していきます。
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