【Yoshida et al. (2017) 瀬戸内海のサキグロタマツメタの分布とサイズ】
著者:Kazuki Yoshida, Tatsuma Sato, Kaoru Narita, Takeshi Tomiyama
題目:Abundance and body size of the moonsnail Laguncula pulchella in the Misuji River estuary, Seto Inland Sea, Japan: comparison with a population in northern Japan
掲載誌:Plankton and Benthos Research 12: 53-60 (2017)
論文閲覧:公式HP
広島県の三筋川河口域におけるタマガイ科巻貝のサキグロタマツメタの分布と体サイズを東北地方と比較した論文です。2015年度から院生として研究室に来てくれた吉田和貴君の、修士論文の一部です。彼は、魚が主な研究対象の当研究室にあって、「変わった生き物の研究がしたい」ということでベントス(底生生物)の研究をすることになりました。ちょうど2015年2月から広島市の干潟で地曳網調査を始めていたことから、そのうちの一つである三筋川河口域の干潟を対象としてベントスの分布を調べようと計画していたのですが、2度目の視察となる5月に偶然、その干潟でサキグロタマツメタをたくさん見つけました。当時、広島県内でのサキグロタマツメタの分布はほとんど報告がなく、広島市(広島湾)の干潟では初記録だろう、ということで、修論のテーマをこの巻貝の生態に変更することになりました。
(三筋川河口域で見つけたサキグロタマツメタ。吉田君が手に乗せた状態で撮影。)
以後、三筋川河口干潟でのサキグロタマツメタの分布調査や採集した個体のサイズを計測しました。また、この巻貝は宮城県と福島県で特にアサリを捕食する外来種として問題になっていたことから、福島県水産試験場相馬支場(当時)にお願いして福島県の松川浦でも分布調査を8月に実施しました。9月~10月にはそれぞれの場所での卵塊調査も行いました。
(松川浦にて。潮が最も引く前に調査を行っています。)
ある程度データが得られたので、2015年12月から吉田君に執筆を開始してもらいました。まず和文で書いてもらって、初稿を2016年の2月に受け取りました。お世話になった福島県水産試験場の佐藤さん、成田さんにも共著者に加わっていただいて何度かやりとりを重ね、最終的に吉田君が原稿を英語にして、4月下旬に英文校正に出しました。そして、5月にPlankton & Benthos Researchに投稿しました。吉田君が2016年の後期から休学し、ソロモン諸島へ旅に出かけたため、投稿後の対応はほぼ冨山が行いました。3回の改訂を経て11月末に受理され、2017年2月にオンラインで掲載されました。論文はJ-Stageでオープンアクセスで公開されています。私はそれまでサキグロタマツメタの学名に Euspira fortunei を用いていましたが、広島大学の鳥越先生が同じく広島大におられた稲葉明彦先生のご遺稿をまとめて2011年にタマガイ科の巻貝の分類について整理されたそうです(東邦大学の大越先生に教えていただきました)。そして、サキグロタマツメタの学名として Laguncula pulchella が使われるようになりました。吉田君の論文でもこちらの学名を使っています。
また、吉田君はこの内容で、2016年5月に韓国の釜山で行われた第7回世界水産学会議(7th World Fisheries Congress)でポスター発表も行いました。
(ポスターの前で。左は宮城県の渡邊さん。)
論文掲載後、いくつかミスが見つかりました。確認が不十分であったことを反省しました。
(掲載後にみつけたミス)
・P57 左段 (誤)61.9 ± 73.0 (正)61.9 ± 24.3
・P58 Fig. 5. (誤)Site H: ln SBWW = 0.30 × ln SH > − 5.02, Site F: ln SBWW = 0.27× ln SH > − 3.40
(正)Site H: ln SBWW = 2.81 × ln SH - 8.26, Site F: ln SBWW = 2.84 × ln SH − 8.24
・P58 左段 (誤)F1,188 = 30.96 (正)F1,188 = 31.16
また、後日談ですが、2020年にとある海外誌の論文の査読を行った際、「タマガイ科の卵塊の密度を調べた研究はYoshida et al. (2017)以外に見当たらない」との記述をみつけ、ちょっとうれしくなりました。
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