【Yoshida and Tomiyama (2021) ヒメハゼの生息場利用と二次生産】

2021年07月24日 13:40

著者:Yusei Yoshida, Takeshi Tomiyama

題目:Habitat utilization and secondary production of the sharp-nosed sand goby Favonigobius gymnauchen around intertidal areas

掲載誌:Environmental Biology of Fishes 104: 811-823 (2021)

論文閲覧:広島大学リポジトリ公式HPPDF (SharedIt)


 吉田ほか(2019)水産技術で報告した広島湾の干潟における魚類相調査において、採集されたヒメハゼについて生息場所利用と二次生産を解析した論文です。2015年度に卒業論文、2016・2017年度に修士論文の研究を行った吉田侑生君がとりまとめてくれました。卒業論文のとりまとめの際に、優占種であるヒメハゼに着目して場所(砂浜や河口砂泥干潟やアマモ場)間での生態比較をしました。砂浜では密度が低く、河口域の砂泥質の場所では密度が高いこと、アマモ場ではカイアシ類、砂浜や河口域では多毛類やヨコエビ類を食べていることなど、場所間での違いがいくつかみられていました。吉田君の修士論文では、イシガレイやマコガレイの塩分と成長の関係を実験的に調べていましたが、ヒメハゼでも塩分が成長に及ぼす影響を検証する実験を行いました。ヒメハゼは塩分変動の大きい河口域で最も密度が高かったことから、汽水で最も成長がよいのではないかと考え、塩分5、15、30の条件で飼育を行ったのですが、結果としては塩分試験区の間で摂食量や成長速度の差異は認められませんでした。この塩分と成長の実験結果を組み入れて、論文としてまとめることにしました。


(野外調査で採集したヒメハゼ)



(飼育で用いたヒメハゼ)


 吉田君は前報(水産技術)の投稿が終わってから執筆に着手し、2018年1月に和文原稿を、3月に英文原稿を作成してくれました。それから私が原稿を預かったのですが、内容的に満足がいかず、結局投稿に至るまでに2年以上を要してしまいました。ちょうど、ポルトガルで似たような研究が行われ、論文として発表されていました。その論文では、河口域に生息するハゼ科の魚の二次生産が求められていました。この二次生産という用語について、私はずっと勘違いをしていました。私はそれまで一次生産者(植物プランクトンなど)を利用する生物の生産と認識していたのですが、ハゼ類は主に動物食です。調べてみると、二次生産とは従属栄養生物による生産量で、必ずしも一次生産者を直接食べる生物に限定されないことがわかりました。何とも勉強不足です。このポルトガルのハゼ論文を参考にして、全体的に構成を見直し、原稿を仕上げました。そして原稿を2020年12月に英文校正に出して、Environmental Biology of Fishesに投稿しました。

2021年3月1日に審査結果が届きました。2名の査読者からはいずれも大幅な改訂を求められました。特に、「雌雄の判別は容易なのに、なぜ判別していないのか。判別することで、産卵期がいつか(雄が卵を保護するので採集される個体が雌に偏る可能性)、そして分布や出現に雌雄間での差異がないか検証できるはず」と重要な指摘を受けました。残念ながら卒論では雌雄判別を行っておらず、大きな反省点でした。しかし、幸いに研究室で過去に行われた研究(坂宮さん、平成11年修士論文;日高さん、平成22年修士論文)で、広島県内の別の場所(竹原市)で雌雄別の体サイズ組成や成熟、性比などを調べた情報があったので、これらを未発表データとして引用し、議論を進めました。 改訂には苦労しましたが、改訂原稿を4月末に作成し、英文校正を受けて5月1日に投稿しました。その後、再度2名の査読者による査読が行われ、6月28日に受理されました。そして7月号に掲載されました。


 なお、この論文に関連して、2016年3月の日本水産学会で吉田君がヒメハゼの出現と摂食について、2021年3月の日本水産学会で冨山がヒメハゼの成長と二次生産について発表しました。2021年の学会は新型コロナウィルスの影響によりオンラインで行われ、個人的にもオンライン学会発表デビューとなりました。 



(2016年3月の学会発表の様子) 

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