【Uehara et al. (2019) タチウオ仔魚の鉛直分布の日周変化】

2020年06月19日 13:49
著者:Daichi Uehara, Jun Shoji, Yuichiro Ochi, Shuhei Yamaguchi, Kazumitsu Nakaguchi, Jun-Ya Shibata, Takeshi Tomiyama
題目:Diel changes in the vertical distribution of larval cutlassfish Trichiurus japonicus
掲載誌:Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom 99: 517-523 (2019)


 タチウオ仔魚の日周鉛直移動について明らかにした論文です。2015年度の卒業論文、2016~2017年度の修士論文で研究した上原大知君がとりまとめてくれました。卒業論文ではタチウオの初期生活史に関する研究をしようということになりましたが、その一環で、広島大学練習船豊潮丸(256トン)の調査航海でMTDネットを使った調査を行うことにしました。当時、豊潮丸ではMTDネットを保有していたものの、長年使用されておらず、船員さんでも使用経験がほとんどなかったため、2015年9月の航海では試し曳きを行って使用方法を確認しました。このMTDネットは、元田式水平ネットというもので、多層を同時に曳網して仔魚やプランクトンを採集することができます。口径60cmと小さいので遊泳力がある生物の採集には向きません(参考)。このネットを使って瀬戸内海中央部の燧灘で4定点を設け、調査を行いました。事前に小路先生から過去のサワラ調査での経験をもとに仔魚が獲れそうな場所を教えていただいていましたが、4定点8回の調査で合計98尾のタチウオ仔魚を採集することができました。なお、どの場所も水深25mより浅く、曳網は水深1、6、11、16mで行いました。



(MTDネット。久しぶりの使用だったようです。)



(採集されたタチウオ仔魚)


 翌2016年も同じく9月に調査航海を行いました。今度は最も仔魚が採集された愛媛県新居浜市沖の調査点で、24時間連続調査を行うことにしました。3時間ごとにMTDネットを曳網しました。船員さんは交替で作業に当たってくれました。研究室メンバーも同様に交替で作業を分担しました。ただし主担当の上原君は全作業に立ち会ってくれました。8回の曳網で223尾のタチウオ仔魚を採集できました。また、2015年の調査は日中に行ったのですが、タチウオ仔魚は中層や底層でしか採集されなかったのに対し、2016年の調査では夜間に表層付近でも仔魚が採集され、明瞭な日周変化が認められました。


(調査の合間に顕微鏡でタチウオ仔魚を探す上原君。)


 2016年の結果をもとに、上原君が原稿執筆を開始しました。調べてみると、タチウオ類の仔魚の日周的な鉛直分布についての論文は皆無であることがわかりました。そして2017年4月に原稿が完成し、共著者とのやりとりを経て、Journal of Fish Biologyに短報として投稿しました。ところが査読に回ったのが1ヶ月ほど先で、さらに3ヶ月後に却下されてしまいました。2人の査読者の評価は割れ、要修正と却下でした。却下を進めてきた査読者の意見は、1回だけの昼夜調査では信頼性に欠けるというものでした。また、2人の査読者ともにタチウオの学名について「Trichiurus lepturus」にすべきと意見していました。実はタチウオは分類学的に大変混乱している魚種グループで、かつては世界中でタチウオが T. lepturus の1種だとされてきました(FAOの出版物)。しかし、その後、様々な種類がいることが報告され、日本のタチウオには T. japonicus の学名が与えられています。残念ながらWorld Register of Marine Species(WoRMS)ではこの学名が認められておらず、未だに T. lepturus がaccepted nameとされています(参考)。しかし、この意見には同意できないことから、T. japonicusT. lepturus とは遺伝的に異なることを報告した論文(Chakraborty ほか)を引用して説明することにしました。
 この査読結果が来る前の2017年6月に、豊潮丸による3回目のタチウオ仔魚調査を行いました。前年9月と同様に3時間おきにMTDネットを曳網し、9回の採集を行いました。タチウオの産卵期は5月~10月と長く、特に春と秋にピークがみられることが知られていたため、春生まれの仔魚を採集する目的でしたが、残念ながらタチウオ仔魚は1尾しか採集されませんでした。しかし、この調査結果も原稿に加えることになりました。併せて、共著者の小路先生が以前に同海域でサワラの仔魚を採集された際に混獲されたタチウオ仔魚のサンプルをいただいて、上原君が調べたところ、同様に日周鉛直的な分布の変化がみられました。これらを加え、原稿を修正して2017年9月にJournal of the Marine Association of the United Kingdom(JMBA)に投稿しました。そして12月下旬に要大改訂の判定となりました。査読者からは、濾水量あたりの採集個体数で示すよう求められました。実は2015年と2016年の調査では、MTDネットでの濾水量を記録しておらず、採集個体数のみで示していました。しかし、私たちも濾水量を求めて定量的に示したいと考えていたので、2017年の調査では濾水計を取り付けていました。この濾水計の取り付け方にはちょっとした工夫が必要で、和歌山県の原田さんに助言をいただいて取り付けました。


(濾水計をとりつけたMTDネット)


 2017年は、6月の調査以外に9月にも調査を実施しました。しかし、広島大の本部から「深夜の調査はなるべくやらないように」とのお達しがあり、9月は夜間2回、日中4回の調査に変更しました。9月の調査では40尾のタチウオ仔魚が採集されました。これらの結果も改訂原稿に加え、また採集層ごとの濾水量データの平均値を2015年と2016年の調査結果にも与えて、2018年1月にJMBAに改訂稿を投稿しました。そして査読に回り、修正要求のないまま2月下旬に受理されました。2018年4月にオンライン掲載されましたが、そこからが長く、2019年3月にようやく誌面に掲載されました。苦労は多かったですが、たくさんの方の協力を得て調査した成果が形となってよかったです。

 なお、この内容は2016年春と2017年春の日本水産学会で上原君がポスター発表しました。



(2016年春の水産学会で発表する上原君。) 

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