【Taniguchi et al. (2026) 瀬戸内海におけるイカナゴの被食減耗】
著者:Aoi Taniguchi, Michio Yoneda, Tetsuya Nishikawa, Masahiro Nakamura, Taizo Morioka, Takeshi Tomiyama
題目:Local environmental changes boost predation risk in forage fish: application to the sand lance in the eastern Seto Inland Sea
掲載誌:Marine Environmental Research 215: Article 107827 (2026)
瀬戸内海におけるイカナゴの資源変動において捕食者の増減が与える影響を論じた論文です。2021年度に博士課程前期を修了した谷口碧さんの卒業論文と修士論文の一部を中心としてとりまとめたものです。
瀬戸内海東部ではイカナゴが春季の重要な漁獲対象となっています。特に3~4月に漁獲される仔稚魚は「シンコ」と呼ばれ、くぎ煮の材料として利用されてきました。2000~2016年の瀬戸内海東部におけるイカナゴの漁獲量は、2009年を除くと年間1~4万トンで推移していました。ところが、2017年に漁獲量は2,000トン未満に急減し、その後も年間3,000トンを下回る年が続いています。なぜ2017年に急激に減少したのかは謎とされてきました。このことについて、共同研究者の水産研究・教育機構伯方島庁舎(当時)の米田さんと議論を重ね、「近年の餌不足でイカナゴが捕食者に食べられやすくなったことが関係しているのでは?」と考えるに至り、谷口さんの修士論文で取り組むことになりました。具体的には、餌を十分与えた高給餌(HR)区と、餌を制限した低給餌(LR)区に分けてイカナゴを飼育し、イカナゴの栄養状態によって夏眠(イカナゴは夏の間は砂に潜って冬になるまで眠ります)や捕食者による被食がどのように影響を受けるのか、を調べました。
実験は2019年と2020年に上述の伯方島庁舎で実施しました。2019年では、夏眠開始のタイミングを調べる実験と、カサゴを用いた被食の生じやすさを調べる実験(捕食実験)を行いました。HR区のイカナゴには耳石標識(ALC)を施しました。水槽の上方にカメラを取り付けて、タイムラプス撮影を行いました。夜間はイカナゴを驚かせないように、赤色ライトを点灯させました。夏眠開始実験では、LR区のイカナゴの夏眠開始がHR区よりも明らかに遅れることがわかりました。捕食実験では、まず予備実験(4日前にイカナゴを両区から15尾ずつ放流しておいた5トン水槽に、7月2日にカサゴとキジハタを投入)を実施しました。捕食者の投入を16時に行い、様子を観察していたのですが、19時に消灯して赤色光のみとなった後、イカナゴが水槽底面に横たわって動かなくなってしまいました。この横たわった状態は夏眠開始実験でも夜間に観察され、朝になると再び元気に泳ぎだしていたことから、夜間に眠る行動と考えられました。砂があれば砂に潜って眠っていたのかもしれませんが、水槽には砂を敷いていなかったため、捕食実験では簡単に捕食者に食べられてしまいました。そこで、実験は短時間に限定して日中に行うこととしました。
(イカナゴの飼育実験に取り組む谷口さん)
(赤色光の下で突如横たわったイカナゴ)
2020年には、捕食者としてマダイやマサバ(追跡型)、カサゴ(待ち伏せ型)を用いて捕食実験を複数回行いました。コロナ禍に突入していろいろと難しい面がありましたが、伯方島庁舎の米田さん、中村さん、森岡さんの協力を得て何とか実施することができました。私たちはLR区のイカナゴがより多く捕食されると予想していましたが、実験はなかなか難しく、LR区のイカナゴとみられる個体が水槽の表層を逃げ回ったり水槽の隅に隠れたりして捕食者にあまり食べられない、といった実験ならではの現象も生じました。結果として、特に給餌条件で捕食されやすさの違いを見出すには至りませんでした。しかし、これは「HR区であっても捕食者と遭遇してしまうと容易に捕食されてしまう」とも解釈できます。
(マサバが泳ぐ水槽にイカナゴを投入するところ)
(実験で用いたカサゴとその胃にみられるイカナゴ)
以上の内容について、2021年1月に谷口さんが日本水産学会中国四国支部例会で口頭発表(スライドビデオによる発表)を行いました。また、研究内容を論文化するべく、2021年に谷口さんが執筆を開始しました。5月に初稿を受け取り、それからやり取りを重ねました。2022年2月に共同研究者の米田さんに原稿を送ったところ、捕食者となる魚類の漁獲情報を解析して加えてはどうかとアイデアをいただきました。そして、イカナゴの漁獲量が最も多い兵庫県での情報を得るため、兵庫県の西川さんを交えて3月に打合せを行い、2022年4月に米田さんから解析結果と原稿修正の案をいただきました。その後、数回やりとりを行ってから英文校正に出して、2023年6月にMarine Environmental Changeに投稿しました。ところがいつまで経っても査読に回らず、何度か催促し、10月にやっと査読が開始され、2024年6月にリジェクトの通知がありました。原稿に微修正を加え、Ecosystems、Journal of Marine Systemsと投稿しましたが、立て続けにリジェクトされてしまい、同年12月にMarine Environmental Researchに投稿しました。2025年1月にUnder Reviewとなりましたが、審査が一向に進まず、何度も問い合わせを行いました。同年11月に、出版社を通じて問い合わせたところ、「1名の査読は終わっているが、もう1名の査読者が決まらない。査読を打診しているが、これまで14人に断られている」と説明がありました。12月に査読者が決まり、12月23日に要微修正の審査結果が来ました。翌日には修正して投稿し、2026年の元旦に受理通知が来ました。その後のやり取りは早く、同日にゲラが届き、校正して返送したところ、1月2日にはオンラインで最終版が掲載されていて驚きました。本論文は広島大学と出版社との転換契約により、オープンアクセスで掲載されました。また、2月5日に広島大学と水産研究・教育機構から共同でプレスリリースされました。
コロナ禍で苦労があった中で、多くの人の協力を得て実施した谷口さんの研究成果が形になって本当によかったです。
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