【Shigematsu et al. (2017) 瀬戸内海冬季のイカナゴ等仔魚の分布とサイズ】

2020年06月19日 13:32
著者:Yuya Shigematsu, Yuichiro Ochi, Shuhei Yamaguchi, Kazumitsu Nakaguchi, Yoichi Sakai, Jun-ya Shibata, Wataru Nishijima, Takeshi Tomiyama
題目:Winter longitudinal variation in the body size of larval fishes in the Seto Inland Sea, Japan
掲載誌:Fisheries Science 83: 373-382 (2017)


 冬季の瀬戸内海において、イカナゴやカサゴなどの仔魚で、出現する体サイズに東大西小の傾向がみられることを報告した論文です。2014年度に卒論、2015~2016年度に修論研究に取り組んだ重松勇也君がまとめてくれました。研究室では2014年度開始の環境省プロジェクト(環境研究総合推進費)に加わることになり、その一環として瀬戸内海でのイカナゴの分布などを調べることになりました。実は、研究室の先輩(山田好美さん、2005年度の修士論文)によって、瀬戸内海の東西で同時期のイカナゴ仔魚の体サイズが異なる可能性が示唆されていました。これを検証することを目的として、2014年1月と2015年1月に広島大学練習船豊潮丸(256トン)で調査を行いました。2014年の調査では、幅1.3mの丸稚ネットを表層で1地点あたり5分間曳網する、という方法を採用しました。これは前述の修士論文にならったものですが、実は京大の山下先生が1985年にイカナゴの仔魚が表層よりも5~15m層に多いという論文を発表されていたため、一部の定点では水深10m層でも同ネットを同じように曳網しました。2015年の調査では全定点で表層と水深10m層で同ネットを曳網しました。
 2014年1月は4日間で16点の調査でしたが、1地点あたり100個体以上のイカナゴ仔魚が採集された地点が3つあり、予想していたとおり、東の方でイカナゴが多く、サイズが大きい傾向がみられました。2015年1月は5日間で21地点の調査でした。2014年よりも採集量が少なかったものの、100個体以上採集できた地点が2つありました。以上の調査では、2つの丸稚ネットをほぼ同時に表層(右舷側)と10m層(船尾側)で曳網し、同時に曳網終了となって次の地点へ移動するため、回収した丸稚ネットを上から吊して海水をかけてネットの末端にサンプルを集めるという作業を数人がかりで行いました。後の作業を減らすためにサンプルは船上でソーティングしました。ヤムシを仔魚と間違えてしまうこともありましたが、仔魚類を全て抽出して持ち帰りました。とにかく寒さの中での作業が大変でした。


(研究室総動員で冬の寒さの中、仔魚を採集しました。)


(船上でのソーティング作業)


 結果的に、表層と10m層で特に採集量に違いはみられませんでした。瀬戸内海のような浅い場所で、なおかつ冬季の鉛直混合が起きやすい条件では、採集層が影響しにくいのかもしれません。重松君が仔魚類の種同定、測定を行い、解析を進めました。2014年、2015年を通じて、イカナゴだけでなく、カサゴやメバル複合種群(これらは10m層に多かったです)で東大西小の傾向がみられました。これは冬季の瀬戸内海において、東の方(備讃瀬戸や播磨灘)で西側(燧灘や安芸灘、伊予灘)よりも水温が低く、産卵(産仔)の時期に東西でのずれが生じているためと考えられました。このような水温の東西での違いもこの論文のとりまとめによって知ることができました。なお、アイナメとクジメ(これらは表層に多かったです )では体サイズの経度勾配は認められませんでした。
 2015年の12月から重松君が日本語での原稿執筆に取りかかりました。それから調査航海の設定や調査内容の考案に貢献いただいた先生方に共著者に加わっていただき、原稿を仕上げて、2016年9月にFisheries Scienceに投稿しました。そして、3回の査読を経て2017年2月末にようやく受理されました。そして2017年3月にオンライン掲載され、5月号で誌面に掲載されました。豊潮丸の2年にわたる過酷な(?)冬の調査が、成果として残ってよかったです。

 なお、この内容は重松君が2014年秋と2016年春の日本水産学会大会で発表しました。



(2014年の学会デビュー前の重松君と発表会場。合成写真です。) 

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