【Sakurai et al. (2021) 馴致水温がマコガレイの高温耐性と成長に及ぼす影響】

2021年04月14日 11:58

著者:Gento Sakurai, Satoshi Takahashi, Yusei Yoshida, Hiroshi Yoshida, Jun Shoji, Takeshi Tomiyama

題目:Importance of experienced thermal history: effect of acclimation temperatures on the high-temperature tolerance and growth performance of juvenile marbled flounder

掲載誌:Journal of Thermal Biology 97: Article 102831 (2021)

論文閲覧:広島大学リポジトリ公式HP


 マコガレイ稚魚の高水温耐性や成長特性が、事前に経験した水温の違いでどのように変化するかを実験的に調べた論文です。2017年度の卒業論文で研究した櫻井玄人君が、博士前期課程で追試験を行って、とりまとめてくれました。なお、彼の修士論文は別のテーマでした。櫻井君が研究室に学部3年で配属された2016年秋は、ちょうど修士2年の日下部君の論文(マコガレイ稚魚の成長における至適水温)について審査員から「それまで経験していた水温が影響しているのではないか」との指摘を受けていました。そこで、実験前に異なる水温を経験させて、成長などの応答を調べよう、ということで、卒業論文のテーマになりました。

 2017年の4月に、広島市より許可をいただき、マコガレイの種苗生産をしている広島市水産振興センターより体長約25mmの稚魚(種苗)の提供を受けました。稚魚をトスロン(密閉バケツ)に入れて、広島大学の竹原水産実験所に持ち込みました。そして、12℃と24℃に設定した水槽で2週間馴致させました。この水温は、マコガレイの稚魚の成長が認められる両極端の水温として選定しました。2週間の馴致期間は、自動給餌器で、餌(配合飼料)をほどほどに与えるようにしました。そして4月28日に、高水温耐性の実験を開始しました。実は、それまで経験していた水温によって温度耐性が変化することは様々な生物で報告されていました。高水温耐性を調べるため、水温を一定にして24時間の生存を調べる試験と、水温を少しずつ上昇させてどこまで稚魚が耐えられるかを調べる試験を行いました。前者は、22℃と24℃でまず実験を行い、全ての稚魚が生残したことを確認しました。次に26℃と28℃で実験を行い、最後に28℃で生き残った稚魚を30℃で再実験しました。後者は、21℃から2時間に1℃ずつ昇温させていく実験です。後でわかったのですが、このような試験はもっと速く昇温させるのが一般的です。そこで、後付けの理由ですが、野外での水温変化の速度を想定した、ということにしました。2時間に1℃なので、観察者の櫻井君は22時間にわたって観察を続け、ほとんど徹夜の実験になってしまいました。これらの実験では、予想通り24℃で馴致させた稚魚の方が高水温耐性が高いことがわかりました。なお、2017年はほかに成長実験と餌の有無による影響の実験を行いました。成長実験は用いた稚魚の数が少なく、結果の解釈が難しかったので、翌年に追試験をすることにしました。餌の有無の実験は、餌がない場合の高温耐性は、餌がある場合の高温耐性より高くなることを検証する目的でしたが、稚魚があまり餌を食べてくれなかったので、不明瞭な結果となり、論文からは除外しました。余談ですが、この年の秋に岡山県で行われた日本水産学会中国・四国支部例会で、これらの実験結果を櫻井君がポスター発表し、なんと優秀賞(ポスター部門)を受賞しました。



(2017年4月、広島市水産振興センターに初めてやってきた櫻井君。)


 

(支部例会で発表する櫻井君)


 

(支部長より表彰を受けました。)


 翌2018年は、櫻井君の修士論文テーマであるカレイ類の野外調査とは別に、再度室内での成長実験に取り組みました。前年と同様に広島市の協力を仰ぎ、種苗の提供をいただいて、12℃と24℃で馴致させた種苗をいくつかの水温条件で飽食給餌させて成長を調べました。実験は4月と6月に1回ずつ行いましたが、結果が両者で異なっていて、馴致させる前の水温経験が効いていたと考えられました。マコガレイは3月下旬から4月上旬に、水温が13~14℃ぐらいのタイミングで海に放流されています。一方、種苗生産では稚魚の成長を加速させるために加温(水温を高く設定すること)することも可能です。加温して高い温度になれた稚魚を、野外の低い水温条件で放流することは、摂食や成長の観点から好ましくない、という結論となりました。

 論文は紆余曲折を経て、かなりの時間を要しました。成長実験の結果が1回目と2回目で異なる傾向であったことに、当初は説明がつけられず、まずは高水温耐性だけで論文にしようとしました。2019年2月から櫻井君が執筆を開始し、5月に原稿を仕上げてJournal of Applied Ichthyologyに投稿しましたが、門前払いされました。次にRegional Studies in Marine Scienceに投稿しましたが、これも門前払いされました。高水温耐性だけでは論文の価値が認められないと判断し、結局成長実験を含めることにしました。そして、2019年7月にAquaculture Researchに投稿しました。査読には回りましたが、査読者から実験のアラが目立つことや、実験を3回やっていないとダメ、という指摘でリジェクト判定となりました。2019年10月にFisheries Scienceに投稿し、2人の審査員から建設的な助言とともに要改訂の判定を12月に受け、大学院修了を目前に控えた櫻井君と改訂に努めました。特に、種苗生産行程を詳しく説明するよう指摘があったため、広島市と協議し、広島市水産振興センターの吉田さんに著者に加わっていただきました。そして2020年2月に改訂を終えて投稿しました。3月末に再度要改訂の判定となったのですが、査読者の一人からは、成長実験の1回目で稚魚が実験中にいくらか死んでしまったことを問題視され、この実験を除外するよう進言されました。しかし、この実験の結果はこの論文にとって必要と考えていたこと、1回目の実験は2017年の成長実験(論文には含めていません)と類似した結果であったことから、これを受け入れることはできないと結論しました。また、査読者とのやりとりの過程で、水温馴致の影響や高温耐性の研究手法について学ぶ機会となったことで、より専門的な雑誌に投稿した方がよいとの考えに至りました。卒業して就職した櫻井君とも相談し、共著者の同意を得て、Fisheries Scienceからは論文を取り下げ、2020年4月にJournal of Thermal Biologyに投稿しました。6月に要改訂の審査結果が届きました。4人の査読者から、びっしりとたくさんの指摘を受けましたが、いずれの査読者もリジェクトの判定ではありませんでした。査読者のコメントに心が折れそうになりながら、改訂期限も2度も延期してもらって、2020年9月に英文校正に出してから改訂稿を投稿しました。そして2020年11月に要微修正の判定となり、12月31日に受理され、2021年4月号に掲載されました。

 櫻井君の在学中に受理まで至らなかったのは自分の力不足で、大変情けなくも思いましたが、何とか形になってよかったです。

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