【Namikawa and Tomiyama (2025) 広島湾におけるマコガレイ放流種苗の食害】

2025年11月05日 09:30
著者:Yukako Namikawa, Takeshi Tomiyama
題目:Post-release predation of hatchery reared marbled flounder Pseudopleuronectes yokohamae in Hiroshima Bay, Japan
掲載誌:Fisheries Research 292: Article 107589 (2025)
論文閲覧:広島大学リポジトリ(予定)、公式HP


 広島湾においてマコガレイ稚魚(人工種苗)の放流後の食害について調べた論文です。2022年度に博士課程前期を修了した並河由佳子さんの修士論文の一部をとりまとめたものです。

 広島市では毎年、全長約3cmのマコガレイ人工種苗を広島湾内で10~12万尾ほど放流しています。この栽培漁業の取り組みは1993年から続けられていますが、カレイ類の漁獲量は減少し続けており、放流効果の向上が求められています。


(マコガレイ種苗放流をする並河さんと同級生の岡本君) 


 一般に、種苗放流で問題となるのは、放流からごく短期間で放流種苗が急激に減耗することです。そして、その減耗の主要因は食害であると考えられています。広島湾のマコガレイ放流は、湾につながる河川の河口域など複数箇所で、1箇所あたり1~3万尾ずつ放流されています。河口域は水深が浅く、大型の捕食者が侵入しづらいため、稚魚の好適な成育場となります。そこで、放流場所の周辺に固定式刺網を150mほど設置し、捕食者となりそうな魚類が出現するのか調べることにしました。調査は放流場所の一つである八幡川河口域において、関係漁業協同組合の協力のもと、2021~2023年の3年間行いました。

 3ヶ年の調査では年によって全く状況が異なりました。2021年は、マダイ、クロダイ、スズキ、メバル類、カレイ類、ヨシノゴチなど多種多様な魚類のほか、モクズガニが300個体以上採集されました。モクズガニは産卵のために4月前後に河口域に集まる習性があり、それがまとまって採集された要因と考えられました。2022年は、おびただしい数のコノシロ(推定1,500尾以上)が網にかかり、それ以外の魚種が極めて少ない状況でした。コノシロも4月は産卵期で、やはり河口域に入ってくることがあるようです。コノシロが多くかかると網がもつれて他の魚がかからなくなると考えられました。2023年は、全体的に魚類、カニ類の数が少なく、大型の魚類はほとんどみられませんでした。採集した生物の胃内容物を観察したところ、2021年に採集されたスズキ1尾(全長38.5cm)からマコガレイ稚魚2尾が確認されました。それ以外の生物からマコガレイは確認されませんでしたが、ハゼ類などを捕食していた魚類もみられ、捕食者になり得る魚類が放流場所に少なからず出現することがわかりました。


(刺網を設置。井口漁業協同組合さんに大変お世話になりました) 



(2021年の刺網)


(モクズガニがたくさんかかりました) 


(2022年の刺網 コノシロだらけでした) 



(2023年の刺網 あまり魚がかかっていませんでした) 


 

(2023年の採集物)


 また、2022年にはモクズガニを用いてマコガレイ種苗を捕食するか室内実験を行いました。砂を十分に敷いた水槽内にモクズガニを収容し、14日後にマコガレイ種苗をその中に投入しました。その後、合計で4回の試行を行い、マコガレイの個体数が減少していたことやタイムラプスカメラでの画像でマコガレイを捕えたモクズガニが確認されたことから、モクズガニがマコガレイ種苗を捕食することがわかりました。ただし、捕食圧はそれほど高くない印象でした。というのも、飢餓状態のモクズガニはただちにマコガレイを捕えるものと想定していましたが、予想に反してモクズガニは全く反応をみせなかったためです。以前に福島県においてヒラツメガニを収容した水槽にヒラメ種苗を放流したところ、ヒラツメガニはただちに砂から出てきてヒラメを捕え、捕食し始めたことがありました。これとは全く異なっていました。論文投稿後も、編集委員や査読者から「モクズガニの捕食圧は高くないのではないか」と指摘を受け、そのような表現に修正しました。


(モクズガニ実験の様子) 


 以上の結果について、まず1年目の調査結果について2021年12月の日本水産学会支部例会にて並河さんがオンラインでポスター発表を行いました。この年の支部例会は新型コロナウィルスの影響によりすべてオンラインで行われました。また、論文原稿としてとりまとめ、2025年6月29日にFisheries Researchの栽培漁業特集号に投稿しました。実は、栽培漁業の国際シンポジウムが2024年にチリで開催され、当初エントリーしたのですが、結局発表をとりやめた、という経緯がありました。ただし、その後にシンポジウム参加者ではなくてもシンポジウムの特集号に投稿してよいとの連絡があり、短報として準備を進め、何とか投稿にこぎつけることができました。2025年8月に要改訂の通知があり、9月に原稿を修正して投稿し、10月に受理されました。また、2025年11月の水産海洋学会にてポスター発表を行いました。論文が受理されたのは、学会発表の3日前でした。受理されてから2日後にはゲラ校正があり、6日後にwebで掲載されました。

 この広島市マコガレイ放流関係の研究は、放流後の成長や生残の評価を主な目的として行っており、そちらについていずれとりまとめたいと思います。


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