【Kuzuhara et al. (2019) イカナゴの餌料環境と再生産】

2020年06月24日 08:13
著者:Hirotsune Kuzuhara, Michio Yoneda, Tetsuo Tsuzaki, Masanori Takahashi, Naoaki Kono, Takeshi Tomiyama
題目:Food availability before aestivation governs growth and winter reproductive potential in the capital breeding fish, Ammodytes japonicus
掲載誌:PLoS ONE 14: e0213611 (2019)


 夏眠前のイカナゴ当歳魚が、餌料が少ない条件でどのように成長や再生産に影響を受けるかを実験的に調べた論文です。2016年度の卒業論文、2017、2018年度の修士論文で研究した葛原裕恒君がとりまとめてくれました。彼は地元で親しんできた魚であるイカナゴの研究がしたいと強い希望を持って研究室に来てくれました。
 葛原君が研究室に配属された2015年の秋(3年後期から研究室配属)に、水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所伯方島庁舎の米田さんと一緒にイカナゴの研究を進める話が始まりました。2016年度からイカナゴ瀬戸内海東部系群が水産庁の資源評価の対象種に加わることが決まっていたため、米田さんたちは2015年度からイカナゴの飼育実験を開始されていました。ただ、ハクビシンとみられる動物による食害が起きるなど最初は苦労が多かったようです。この米田さんたちの飼育実験系を活用して、実験的な研究をさせていただくことにしました。そこで、2016年1月に広島大学で、瀬戸内海区水産研究所との研究打合せを行いました。そして米田さんのご尽力により、2016年度から広島大学と瀬戸内海区水産研究所の間で共同研究契約を締結し、協力して研究を進めることになりました。


(2016年3月に伯方島庁舎にてイカナゴの観察。)


 実験内容として、2016年4月に米田さんから「餌料条件による成長の応答について、ALC標識を施して個体レベルで調べる」という提案をいただき、葛原君が伯方島庁舎で実験に取り組むことになりました。材料として、2016年に愛媛県で漁獲されたイカナゴ当歳魚を実験に用いることになりました。4月から3週間に一度、飽食区(体重の4%に相当する餌を給餌)と低給餌区(体重の1%を給餌)に分けたイカナゴにALC標識を施し、また一部をサンプリングして6月末まで実験を行いました。実験の設計と装置の準備は伯方島庁舎の米田さんと津崎さんがほとんど全てやってくださいました。サンプリングしたイカナゴの測定結果から、イカナゴは最初に体長が大きくなり、続いて体重が大きくなっていく(太っていく)こと、低給餌条件でも次第に体長より体重の増加を優先させている傾向がみられました。しかし、当初の「売り」として計画していた個体レベルでの成長解析は、ALC標識の付き方の個体変異が大きいなどの理由で断念しました。


(イカナゴの耳石。ALC標識が二重に付いていたり、不鮮明で見えなかったりと、個体差が大きかったです。)


 卒論として、サンプリングした個体のデータをまとめ、これをもとに2017年3月の日本水産学会で葛原君が「餌料条件に対するイカナゴ当歳魚の成長パターンの変異」という演題で発表しました。そして、学会期間中に米田さんと打合せをしたのですが、このデータだけでの論文化は難しいだろうという結論になりました。ちょうど、米田さんが2016年度に葛原君の実験と同時並行で、餌料条件による成熟と産卵への影響を調べる実験を実施しておられたので、そのサンプルの測定や米田さんがとられたデータの解析を葛原君が行い、成長実験と合わせて1つの論文としてまとめることになりました。
 葛原君が修士論文研究の傍ら、原稿を作成し、推敲を重ねました。共著者からも意見をいただき、2018年9月にMarine Biologyに投稿しましたが、残念ながら門前払いとなってしまいました。投稿前に、米田さんからも「この実験の潜在力を十分に引き出せていない」と厳しいご意見をいただいていましたが、投稿を急いでいたためにご了解いただいてほぼその状態で投稿してしまっていました。そこで、修正を加えて10月にPLoS ONEに投稿しました。その後、2019年1月下旬に要修正の査読結果が来て、改訂を行い、3月初めに受理されました。3月8日にはオンラインで掲載され、また広島大学と水産研究・教育機構と共同でプレスリリースしました。
 瀬戸内海ではイカナゴの漁獲量が減少を続けていたのですが、2017年からさらに急激に減少し、資源が極めて低水準となってしまいました。その要因は解明されていませんが、実は瀬戸内海ではイカナゴの餌となる動物プランクトンが減少し続けていることが報告されており、今回の論文の結果は餌の減少による影響の一端を解明したものと考えています。また、この論文は環境省の環境総合研究推進費S13の成果の一つとなりました。

 なお、この論文の内容は、葛原君が何度か学会発表しました(2017年3月と2018年3月の日本水産学会でそれぞれ口頭発表、2017年12月の日本水産学会中国・四国支部例会でポスター発表)。



(ポスター発表する葛原君。)


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