【Kusakabe et al. (2017) マコガレイ稚魚の水温と成長】

2020年06月19日 13:24

著者:Kazushi Kusakabe, Masaki Hata, Jun Shoji, Masakazu Hori, Takeshi Tomiyama
題目:Effects of water temperature on feeding and growth of juvenile marbled flounder Pseudopleuronectes yokohamae under laboratory conditions: evaluation by group- and individual-based methods.
掲載誌:Fisheries Science 83: 215-219 (2017)

論文閲覧:広島大学リポジトリ公式HP


 マコガレイ種苗を用いて、様々な水温で飽食条件のもと飼育を行い、最適な水温が20℃付近であることを明らかにした論文です。2015年度に他大学から大学院に進学した日下部和志君の、修士論文の一部です。彼は、瀬戸内海の魚の研究がしたい、ということで研究室に来てくれました。後でわかりましたが、実は彼が最も興味を持っているのは昆虫らしく、クワガタの生態を熱く語ってくれたこともありましたが、水産業にも関係するということで魚の調査を希望したとのことでした。研究室では、2014年には干潟でマコガレイの稚魚をたくさん採集できたこともあって、彼の修論研究では、野外でのマコガレイの成長を調べることにしました。ところが、調査を開始した2015年にはマコガレイがさっぱり採集できず、日下部君が青い顔で「この状況で修士課程を卒業できるのでしょうか?」と聞いてきたことを覚えています。稚魚が採集されないので、人工種苗を使った飼育実験をすることにしました。ちょうど、農林技術会議のプロジェクト研究で一緒に研究されていた小路先生が、瀬戸内海のマコガレイ天然魚を親として種苗生産を行っている山口県の下松市栽培漁業センターから種苗を取り寄せておられたので、その種苗を分けていただき、広島大の竹原水産実験所で実験をすることにしました。
 問題となったのは実験方法です。100Lの水槽に種苗を10尾ぐらい入れて、水温を様々に調節して実験しようと考えました。しかし、まとめて入れてしまうと個体識別ができず、成長を評価する場合に重要となる、実験開始時点と終了時点でのサイズがわかるのか、という問題があります。そこで、1尾ずつ区画に入れて飼育する個別飼育法を並行して行うことにしました。餌を飽食量与えて、残餌を回収し、摂食量を求めることもできるので、多くのメリットが期待できました。幸いに、マコガレイは1個体ずつ隔離しても、それぞれがちゃんと餌を食べてくれました。マコガレイを収容する容器は、ホームセンターで買った150円ぐらいの容器と網地などを使って日下部君が手作りで作成しました。容器に仕切りをつけて2部屋に分け、100L水槽に3つの容器6尾を個別収容することができました。そして、1日3回、飽食量を与えました。実験期間は、当初10日以上やろうと提案しましたが、日下部君が「7日で勘弁してください」というので、それで期待するような結果が得られるのか半信半疑で7日間の実験を6月に実施しました。


(個別飼育に取り組む日下部君。)


(仕切りのついた区画にカレイを1尾ずつ入れた容器は日下部君の手作りです。)


 結果として、7日間で十分に妥当な結果を得ることができました。日下部君はこの実験方法を応用してサイズの異なる種苗の飼育実験を修士2年のときに実施しましたが、修士1年のときのデータをまず論文にすることにしました。2015年の12月から日下部君が日本語で執筆を始めました。そしてやりとりを重ね、プロジェクトのリーダーで共同研究者の堀さん、実験装置や実施方法でサポートいただいた秦さん、小路先生ともやりとりして、2016年の6月に英文校正を受けて投稿しました。最初に投稿したのはJournal of Fish Biology(短報)でしたが、あえなく門前払いとなりました。それから2つの雑誌で門前払いされ、Fisheries Scienceに8月に投稿し、3回の改訂を経て12月に受理されました。査読者からは、「いまさら?と思われる分野に取り組んだ姿勢」を評価されましたが、古典的な研究であると再認識しました。ただ、この個別実験法は、少なくともカレイ類の稚魚の飼育実験には有効で、その後の学生たちの研究でも大いに活用されています。

 また、この研究内容については、2016年11月に三重大学で行われた日本水産増殖学会で、日下部君が口頭発表をしました。 


(発表前の日下部君。)


 なお、日下部君が修士2年で実施した実験(異なるサイズのマコガレイにおける成長と水温)については、2014年度の卒論生の大槻さんによる野外調査の結果と併せてまとめ、Journal of Sea Research誌に発表しています(Tomiyama et al. 2018)。実は、この論文も該当するのですが、水槽(水温)の繰り返しがないことから、疑似反復の問題があります。2018年の論文では、日下部君の2017年の論文と同様の結果が得られたことから、結果としては妥当と考えましたが、問題は解消できません。そこで、以後の研究では水温の反復を設けて実験を行っています。

サイト内検索

お問い合わせ先

冨山 毅 Takeshi Tomiyama 〒739-8528 東広島市鏡山1-4-4 広島大学 統合生命科学研究科 082-424-7941 (直通)