【Islam et al. (2024) カレイ類2種の稚魚の生息、摂食、成長に及ぼす塩分の影響】

2024年07月11日 14:59

著者:Tania Islam, Angelo C. Macario, Yusei Yoshida, Satoshi Takahashi, Gento Sakurai, Takeshi Tomiyama

題目:Effects of constant and variable salinity regimes on the occurrence, feeding, and growth of two juvenile flatfishes (Pseudopleuronectes yokohamae and Platichthys bicoloratus)

掲載誌:Estuarine, Coastal and Shelf Science 305: 108872 (2024)

論文閲覧:広島大学リポジトリ公式HPフリーアクセス (2024年8月30日まで) 


 干潟域に春季に出現するカレイ科魚類2種(マコガレイとイシガレイ)の摂食や成長に低塩分がどのような影響を及ぼすかを明らかにした論文です。2016・2017年度に吉田侑生君が行った修士論文の研究内容を、2022年度後期から留学に来ているTaniaさんとAngeloさんが再度データ解析し、とりまとめてくれました。

 瀬戸内海の干潟域周辺、特に河川の河口域周辺では、イシガレイやマコガレイの稚魚が3~5月頃に出現します。河口域では、潮汐によって塩分が変動します。干潮時には河川水の影響により塩分が低くなり(場所によっては淡水に近くなります)、満潮時には海水(塩分30以上)の影響により塩分が高くなります。イシガレイはそのような塩分の変動が大きい河口域に出現することがよく知られています。一方、マコガレイはそのような場所での出現記録はほとんどありません。広島県の竹原市のハチ干潟(賀茂川河口域)での記録(Hata et al. 2016)では塩分15以上の場所で稚魚が確認されていますが、そのような塩分でマコガレイの稚魚が出現すること自体、珍しい情報で、東北地方では塩分20未満でのマコガレイの出現をみたことはありません。これは瀬戸内海の干満差が大きいことと関係していると考えています。

 まず、野外でこれまでタモ網を用いて日中の干潮時に行ってきたデータを整理しました。その結果、マコガレイが採集された日時・場所の塩分はイシガレイよりも高いこと、イシガレイでは採集場所の塩分と採集されるかどうかには関係がみられない一方でマコガレイでは高い塩分ほど採集される可能性が高くなることがわかりました。なお、塩分5未満のときでもマコガレイが採集されたこともありました。

 続いて、マコガレイとイシガレイの稚魚を異なる塩分条件で飼育しました。イシガレイは広島県の干潟で採集した天然魚、マコガレイは広島県栽培漁業協会や下松市栽培漁業センターで生産された人工種苗を用いました。稚魚に飽食量の給餌を行い、摂食量や成長に塩分がどのように影響するかを調べました。その結果、継続して低塩分(マコガレイでは塩分5、イシガレイでは塩分1)で飼育された場合のみ、摂食量と成長が他の試験区よりも低くなりました。一方で、これらの塩分と海水(塩分30)を1日に6時間と18時間ずつ変動させた試験区では、特に減少はみられませんでした。この6時間の低塩分経験中も稚魚は摂食をほかと変わらず行っていたことから、一時的な低塩分は稚魚にとって全く問題ないと考えられました。


(塩分試験の実験区、かごが入っていない水槽は入れ替え用のもの) 

 


(測定する吉田君) 


 吉田君の修論をもとに、Taniaさんが2023年1月から解析と執筆に着手しました。2023年11月にほぼ仕上がり、野外データについては私が解析し、2023年12月に英文校正に出して、Estuarine, Coastal and Shelf Scienceに投稿しました。なかなか査読者が決まらずに時間がかかったようですが、2024年5月に要改訂の判定が来ました。2名の査読者からは掲載に向けて建設的なコメントがありました。特に1名からは「野外調査での分布と塩分の関係を調べるだけでなく、一定および変動の条件で設定した塩分環境下での室内実験を実施した点が強みである」と評価してもらえました。ただし、考察が不十分、などの指摘もあり、対応に苦労しました。2024年6月に改訂し、英文校閲を受けて投稿しました。そして2024年7月にめでたく受理されました。受理されたその日にゲラが届いて驚きました。論文は2024年10月号に掲載されました(7月11日に公開)。

 なお、この論文の一部については、2017年11月の3rd Asian Marine Biology Symposiumで吉田君がポスター発表を行いました。吉田君の研究内容での論文は3報目です。


(2017年11月の国際学会で吉田君が発表)  

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