【Harada et al. (2021) サワラ稚魚の高温耐性と飢餓耐性】

2021年07月13日 08:38

著者:Kaito Harada, Tetsuo Morita, Wataru Deguchi, Masayuki Yamamoto, Tomonari Fujita, Takeshi Tomiyama
題目:High-temperature and starvation tolerances of juvenile Japanese Spanish mackerel Scomberomorus niphonius
掲載誌:Fisheries Science 87: 513-519 (2021)

論文閲覧:広島大学リポジトリ公式HPPDF(SharedIt)


 瀬戸内海の重要種サワラの稚魚における高水温耐性と飢餓耐性を調べた論文です。2019年に他大学よりこちらの大学院に進学した原田海斗君がとりまとめてくれました。当初、マアナゴの飼育実験を原田君の研究テーマとしたのですが、レプト(マアナゴの仔魚)の蓄養段階でことごとく斃死してしまい、実験にならないということで、テーマ変更しました。2018年に一つ上の先輩の出口航君が取り組んでいたサワラの飼育実験を引き継いでもらいました。この実験ではサワラの成長における至適水温を解明することが目的でした。しかし、これまで私たちが調べてきたカレイ類とは全く勝手が違っていて、難しいことがわかってきました。カレイ類は一尾ずつ狭い空間に閉じ込めても問題なく餌を食べて成長していました。しかし、サワラはマグロのように泳ぎ続け、ある程度広い空間が必要である上に、共食いも頻発します。サワラは顔が大きく、同じぐらいの体サイズであってもかみついてしまう(ただし飲み込めない)のがやっかいです。


 

(サワラの共食い行動)


 2019年、2020年と、それぞれ6月上旬に瀬戸内海区水産研究所(現在の水産技術研究所)屋島庁舎で実験をさせていただきました。サワラは5月に香川県沖で漁獲された親魚から種苗生産が行われています。ふ化後、約1ヶ月で3~4cmのサイズになり、各府県に配布されて、その大部分は中間育成を経てから海へ放流されています。私たちは、各府県への配布のタイミングで種苗を特別に譲っていただけることになり、種苗を用いた飼育実験を行ってきました。毎年、稚魚の成長を調べる実験を行っていましたが、2020年でサワラの種苗生産が終了することが決まっていたため、思いつく実験をいろいろやってみようということになりました。そこで、高温耐性と飢餓耐性の実験を行うことにしました。仔魚期の飢餓耐性についてはすでに明らかとなっており、サワラは飢餓耐性がとても弱い魚ということが報告されていました。一方、稚魚の飢餓耐性については知見がなく、また高温耐性もサワラでは知見がありませんでした。高温耐性は、一定の水温での耐性と、徐々に加温した場合の耐性を調べることにしました。

 2020年6月の成長の実験の傍ら、高温耐性を調べました。成長実験はいくつかの水温で実施していましたが、29℃の試験区もあり、特にサワラの摂食や生残に影響していない様子でしたので、高温耐性はさらに高いことが想定されました。まず、500L水槽1基にサワラ稚魚を36尾収容し、19時間かけて自然水温の21℃から30℃まで上昇させ、それから水温を1時間に2℃ずつ上昇させていきました。こうして平衡を失った状態の個体をとりあげ、そのときの水温を記録し、サワラは自然水温に戻して回復させて海へリリースしました。このような、平衡を失う水温をCritical thermal maximum(CTMax)といい、平均34.8℃でした。なお、この後に、31℃で24時間馴致した稚魚を用いて同じ試験を行ったところ、平均36.1℃と高くなりました。そのほか、24時間無給餌耐性実験を行ったところ、31.8℃で約半数が死亡すると推定されました。

 飢餓耐性試験も平行して実施しました。実は、2018年にも当時の大学院生の出口君と40Lの容器で試験的に(水温を調整せずに)調べたことがあり、そのときの死亡までの期間は最長で9日間でした。2020年では、29℃と20℃の水槽から水を100L水槽に供給し、サワラを収容しました。水槽の水温を測定したところ、それぞれ27℃と20℃で安定していたため、それらの水温での飢餓耐性としました。幸いに共食いが生じることもなく、20℃では平均7.7日、27℃では平均4.8日で死亡しました。これは従来から「サワラは餌が不足するとすぐ共食いしたり餓死したりする」という経験的な推測と大きく異なっていました。もちろん、餌が十分にあった方がサワラの成育によいことは間違いありませんが、少しでも餌が不足するとトラブルになる、というわけでもなさそうです。



(2020年6月の実験の様子。サワラの様子を確認する原田君。)


 こうした結果を原田君がとりまとめ、共著者やサワラ実験の豊富な経験をお持ちの森岡博士に原稿をみていただき、英文校正に出して2020年11月にFisheries Scienceに投稿しました。2021年1月にリジェクト(掲載不可)の判定結果が届きました。一人の査読者は微修正を求める判定でしたが、もう一方の査読者からは「水槽の反復がないこと(擬似反復問題)」が問題であるとのコメントでした。こればかりはどうしようもなく、また再実験もできないので、結果の妥当性について説明を加え、また擬似反復問題にも言及し、再度2月に同誌に投稿しました。3月下旬に要大改訂の判定となり、修正して投稿し、4月に受理され、7月号に掲載されました。

 原田君が就職で大学を離れる前に受理まで至らなかったのは残念でしたが、サワラでの実験の一部が論文となってよかったです。本丸である成長実験については、水槽の反復もしっかりと設けていたので、こちらも何とか論文にしたいと思います。

サイト内検索

お問い合わせ先

冨山 毅 Takeshi Tomiyama 〒739-8528 東広島市鏡山1-4-4 広島大学 統合生命科学研究科 082-424-7941 (直通)